「銀の象徴的価値」
銀製品に銀そのものの価値以上のものがあるとしたら?
中央アメリカに住むマヤ族は、銀を宇宙と結びつけてその存在をとらえる文化を持っています。
マヤ族の伝説によれば、彼らは銀を月の涙と称していたそうです。対する金は太陽の汗。
何ともロマンを感じさせる表現ですね。
銀には魔術的な役割もあります。
それは、文字通りお守りや魔除けとして銀が使用されてきたことに由来します。
からだの一部を銀でかたどりそれを神聖な場所に置くことで病気が治るという逸話が存在し、それを忠実に守っていた歴史があるようです。
時に、銀でできた脚や腕、目といったものが出土することがあります。失明や生まれつきの障害、あるいは命にかかわるような病から救われたいとの願いからでしょう。
ブレスレットやペンダントに銀が使用されるのは現代でもなじみが深いものですね。女性がこよなく愛してやまないアクセサリー。こういった類のものにも銀が使用されているのは単におしゃれのためだけではないのです。
よく目にする銀を使用したブレスレットは、実は何百年という長い間たくさんの人に愛用されてきました。銀のブレスレットには見た目の美しさはもちろん、お守りの意味が込められているのです。
子どもの命名式に銀のスプーンを贈るしきたりがあります。これも健康に育ってほしいとの願いが込められているものと想像がつきますね。
花嫁に銀のお守りを渡して、彼女が健康に結婚生活をおくれるよう祈ったという19世紀の中国文化。
イギリスでは古い6ペンス銀貨を花嫁の靴の片方に入れるそうです。これから新しい家族をつくっていく花嫁の幸福を祈る気持ちとその願いを銀に込めて贈る風習は、世界のどこをみても共通するものがあるようです。
このように、比較的小さなサイズの銀には魔術的な役割というよりは、より身近なお守りとしても意味合いが強いことが伺えます。
ところで、銀製品には抗菌性があると実験で立証されています。近年発売される絆創膏や包帯には傷が早く治るように銀が使われていることも多いのだそうです。水道水の浄化として人気なのは銀のフィルターです。
こうした銀の特性を考えたら、古人が信じていた銀の魔術的役割というものも、あながち見当違いではないと思うのは私だけでしょうか。
近代になるにつれて、銀の役割も次第に変化していきます。魔術や魔除けの意味合いは文明が発達するにつれて忘れ去られていきました。変わって祝祭やその他何かの行事には、銀製品が記念品として登場するようになります。
ヴァーシップフル・カンパニー・オブ・マーサーズはヴィクトリア女王の即位60年を記念してメンバーに銀盆を贈りました。
現代では、銀にはかなり高価なイメージが定着しています。銀そのものの価値を考えればイメージ通りであるのは間違いありません。しかし、それ以上の価値が上乗せされているように思います。
記念式典や相手がより大切な人である場合、さらには特別な感情を表現したい場合に銀製品が選ばれる理由は単に銀が高価だからという理由だけでしょうか。
昔から神聖なものとして特別視されてきた銀。その価値は現代においてもなお、特別な感情を上乗せした最高級のものとして変わらず輝きを放ち続けているのです。